玉岡かおる
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登山靴とハイヒール
水とくらし
 


ちかごろ町で見かける若い女の子たちの、まるで舞子さんの履くこっぽりのような厚底の靴。流行は繰り返す、とは言うが、「あれって、私たちが若い頃に履いてたのと同じよね」と、振り返る三十代、四十代の女性たちには、靴屋さんがずらりと並ぶセンター街で靴選びに熱中した日の思い出があるに違いない。実は私にも思い出がある。
それは学生時代の友人で、六甲にうちがあるY子のことだ。彼女の靴はすごかった。なにしろ、花魁道中でくるりくるりと片足ずつ転がして歩く高下駄のような、高さ二十センチはあろうかというサンダルなのだ。だから「ただいま」と言って玄関に上がったとたんに身長が縮み、ひきずるほどのズボンの裾は「殿中でござる」のシーンの大名袴になってしまう。
だがおもしろいのは、彼女の下駄箱には、そういうすごい厚底の靴と並んで、泥のついた登山靴がきちんと揃えて入れてあることだった。
「これ、誰の靴?」
何のファッションかと思いきや、彼女はいたって自然に答えたものだ。
「私の靴よ。おばあちゃんと“登ろう会”につきあう時はそれでなきゃね」
登ろう会? ・・ 一瞬、私は、目が点になる。
それは、毎朝暗いうちから山に登って、見晴らしのいい所で体操をしたり詩吟を歌ったりする同好会だ。当然、朝の遅い若者にはあまり縁がなく、ほとんどが健康に関心のある中高年の参加者だ。神戸には、山とのふれあいを日課にしている、実にたくさんのグループがある。
考えてみれば、六甲の麓に住む人々にとっては、山はまさしく自分の家の裏庭であり、すっかり生活の中の習慣として溶け込んでいるのだ。おばあちゃん子だったY子も、子供の頃から何度となく連れられて登った記憶を持つのだろう。
流行のポックリ靴と登山靴とが、何の矛盾もなく並ぶ家。神戸には、玄関のドアを明けたところにもう一つの顔がある。