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明治日本を世界に飛翔させるべく心血を注いだ男と彼の夢に寄り添う一人の女を中心にした、上質の長編恋愛小説である。
彼とは川崎造船所(現・川崎重工業)の創立者、松方幸次郎をモデルにした桜賀光次郎であり、女性は玉岡かおるさんによって命を吹き込まれた愛くるしい淑女、ミサオである。
この小説を読んで読者が獲得する一番の宝は、運命を正しく認識することではないのか。安定した時代、不安定な時代、いずれに生きてもこの言葉は悲観的なイメージにくるまれている。しかし、ある時は逆境にあらがい、ある時は耐えながら、大人の愛をはぐくんでいくミサオの成長に、運命の持つ光の部分を意識せざるをえない。
それも、“冬来たりなば春”的な予定調和でなく、突然迫りくる転換を真摯に受け止めた末に見えてこない美しい虹である。この虹がリアリティを持って読者の胸を打つのは、実は為替相場の詳細まで史実が丹念に調べ上げられているという地道な努力があるからこそだ。書き手が非力の場合、逆に史実の迫力にしてやられるが、玉岡さんは性急な日本近代化の複雑さをやすやすと乗り越えた。読みやすくもありがたいではないか。
「いくら傑物でも馬車馬のようでは近づいた女がはね飛ばされてしまうでしょう。(笑)そこで、私は主人公桜賀を船のように強くたおやかに描いてみたつもりです」
果敢な決断力を見せながら、時としておどけ、ミサオを受け入れる―――なんてチャーミングな男だろうか。
人物作りで小細工に走らない分、意表をつくプロットやユーモアが際だつ。男女の情愛のありようも過不足泣く挿入される。
『天涯の船』は、不況が叫ばれる現代文学の潮流に希望を持ってこぎ出したのである。
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