玉岡かおる
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それはセンセイ
日経新聞4月4日「公友抄」エッセイ『白衣の天使』
 


 姿が見えないと不安になり、会えばずっと話していたい。できれば手など握って慰めてもらい、大丈夫、と微笑んでもらえれば、ハイっ、と元気になれそうな。夫も子もいる私であるからおだやかでないが、実はそれは、昨年入院した時の主治医である。
根性なしで痛みにめっぽう弱い私は、いまだにピアス一つ開けられない。だから検診でみつかった初期ガンの摘出手術をすることになった時はこの世の終わり、摘出さえすれば生存率百%と言われても、ひたすら手術が怖くかった。けれど私に付けられたのはA・ガルシアまがいの若いドクター。うっそー。白衣の天使は女性患者にだって来てくれるんだ。
あくまでも切ることにおびえる私に、センセイはとことん話をしてくれたばかりでなく、若さの特権、土日だって病室を覗きに来てくれる。医療だってサービス業、これだけやってくれるセンセイに対して不信はない。手術の朝、がんばりましょうね、と励ますセンセイに、まさに身も心もおまかせの私であった。     
あれから一年。元気すぎて、手術したことなど嘘みたいな私である。しかしあれほど緊密な信頼でつながれた瞬間の人間関係を思い出すたび、センセイにふたたび会いたいような、いや、もう会いたくないような。