玉岡かおる
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玉岡かおるのひとりごと
  愛車はジゴロ
読売新聞 2005/2/3
 

 最近、ジゴロにのめりこむ日々を送っている。…などと書けば、家族を持つ身だけにおだやかでないが、実はこれ、車のこと。
 はたちで免許を取って以来、走り屋で飛ばし屋の私にとって、車はつねに恋人みたいなものだった。けれども長年、主婦として子育ての任にあったので、車に乗るのはもっぱら家族の送り迎えや買い物用。当然、愛車も、子供や荷物をたくさん乗せられるファミリー・カーで、恋人というより戦友にちかい。
そこへ昨年、下の子が大学に入り、私の子育てもめでたく年季が明けることになった。彼女らがそれぞれ免許を取って、自分で勝手に出掛けていくようになったからである。
 愛着のあるファミリーカーに暇を出すことになったのは、免許を取って二ヵ月にもならない次女が、ぶつけてボディに穴を開けてしまったから。修理に何十万もかかるなら、新車に乗り換えるしおどきだろう。
 まったく、あらたな時代の幕開けというのは、文字通りこうした「衝突」がないとキリがつかないものかもしれない。新車選びは、私に新しい現実を示すことになる。
 もう後部座席にまで子供を満載する必要がない。荷物もそこそこ積めればいい。外見も、お利口な奥様、お母さんに見えなくったって全然かまわない。思えば今までの私は、自分の「分」というものにこだわりすぎてきたようだ。これからは自分のための、自分の好きな車に乗ってもいいんじゃないか。
そうして出会ったのがこの車、私のジゴロだ。生まれはドイツ、洗練されたフォルムは、つい、「見て、見て。こんなカッコいいヤツが私の恋人なのよ」と見せびらかしたくなり、そのタフさときたら、乾いた燃焼音とともに私が望むとおりの走りをする。オープンカーなので、屋根を開けて走れば、街の匂いや星の高さ、今まで知らなかったものを風の中に教えてもくれる。なんとも喜ばせ上手なヤツなのだ。おかげで真冬の今も、完全防備の防寒具に身を固め、屋根を開いて乗ってる始末。うちの町では、そんな酔狂な者は私の他にいないから、すぐに誰だかわかってしまう。
夫も子供も、半ば呆れながらも、それだけ楽しいんなら値打ちはあるね、と納得している様子。ふしぎなもので、こんなジゴロを養ってると、うかつに姑息な運転はできないし、気持ちにゆとりも持てるものだ。残念ながら助手席は空席だが、八十歳のおばあちゃんになっても美しいジゴロ・カーを乗りまわす、そんなミーハーな女でいようと願っている。