玉岡かおる
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快読・楽読 「天涯の船」
サンケイスポーツ 2003年2月28日
 

3年がかり、1500枚の大作「天涯の船」。明治初頭から第2次世界大戦後までの歴史のうねりを背景に、日本と欧州を舞台に描く壮大な大河恋愛小説だ。玉岡さんは、物語のテーマを「無の状態から自我を育て、近代人へと変貌していく人間の姿です」という。
 明治17年、姫路藩家老のひいさまの身代わりとなってアメリカに渡った少女ミサオ。急ごしらえの身代わりが露見しないようにと折檻に近いしつけをする乳母の下で、彼女は大志を抱いて留学する政治家の子息、光次郎に出会う。帰国後、ドイツ貴族に嫁ぎ、必死に生きるミサオと実業家として成功の道を歩み始めた光次郎。再会した2人は引かれ合うが・・・。
 光次郎のモデルは川崎造船所(現・川崎重工業)初代社長の松方幸次郎。常に日本の未来の理想像を抱き続けたスケールの大きな人物だ。
 「幸次郎の生涯を記した資料には1行も女性の存在が出てこない。そのとき、『そんなはずないやろ!』と思った。すごい男には、彼に惚れ込んだ素晴らしい女性がいたはず。そんな男と女の物語を書きたかった」
 膨大な資料を読み込むうちに、明治の男と女という“素材”に魅せられた。前半の主役はミサオ、後半は光次郎にスポットが当たるが、「書き進むうちに、彼女たちが生き生きと動き出してきた。そうなると書くのが楽しくて、外出しても『早く帰ってミサオに会わなくちゃ』という気分になったほどです。」
 しっかりした人物造形と骨太な構成とがあいまって、読み応えは十分。「光次郎は女が惚れ、男も惚れ、時代も惚れた男。作者としては、男性に読んでもらいたいですねえ」という。
 長編小説を読む醍醐味をたっぷり味わせてくれる同作。読後が心地よい。